

新しい生命のカタチ「透明標本」
標本作家 吉田 直希 氏 / 株式会社エム・エー・ディー 高橋 守 氏
しがらみのない、自由気ままな標本作家を目指して
高橋最初に吉田さんにお伺いしたいのが、そもそも魚の標本作家になろうと思ったのか。きっかけを教えていただいてよろしいですか?
吉田きっかけは大学の部活です。高校生の頃、透明標本の存在は知ってて「なんか綺麗だなー」という漠然としたイメージはあったんです。大学の部活の新入生歓迎会で透明標本の展示していて、実物はすごく綺麗だと思って、やってみようとなったのがきっかけですね。
高橋部活だったんですね。部員は何名位いたんですか? みんな透明標本を作っていたのですか?
吉田20~30人が標本を作る班、フィールドワークに出てバードウォッチングしたり、他の生き物を見に行くのが好きな人達の班などに分かれて活動をしていました。大きな括りとして「生き物好き」が集まる部活ですね。
高橋インドア派、アウトドア派に分かれていたんですね。先ほど高校の話が出ましたが、学生時代は主にどんな勉強をされていたんですか?大学院まで出られていますが。
吉田国学院の附属高校に通っていました。 中高一貫で文系の学校だったんですけど、大学は理系の東邦大学の理学部生物学科に入学しました。
高橋生物や生態との関わりが、そこで生まれたってことですね。ということは生き物の知識が活きる専門職に就かれたのでしょうか。
吉田それが普通のサラリーマンになりまして(笑)。「好き」を仕事にして「嫌い」になりたくなかったんです。何の制約も受けない標本作家として、イベントに出展して販売するなどして自由気ままにやっています。

標本作家として他では見ることのできない新しい透明標本を手掛ける吉田氏。実績は200種類1000個体以上に及ぶ。
手がけた作品は1000個以上!大事なのはヤル気と根気
高橋 普通の標本とは技巧的に何が違うんですか?
吉田標本と言っても色々あって、剥製といって皮をなめして、生き物の形にする標本。で、皆さんが最初に思い付くようなのが、骨格標本という理科室に飾ってあるような白い骨のやつ。私がやっている透明標本というのは、それらとも違う、骨に色付けて、肉を透明にするという標本です。それぞれの手法の違いですね。
高橋透明標本の手法はポピュラーなんですか?
吉田技法が論文で発表されたのが、1980年くらいだったと思います。そのあと2000年くらいに日本の方が改良版を発表して、認知が広がりました。私ははその改良版を用いながら、科学的技術をインテリアに落とし込んでカジュアル感を出しています。
高橋誰かに教わったわけではなく、独学で学ばれたのですか?
吉田あえて教わったとすれば、部活の先輩くらいですね。あとは経験則だったり、ひたすら習熟度を上げていくしかないのです。数をこなした分だけレベルアップ!みたいな笑
高橋今までにどのくらい作成されたのでしょうか?
吉田作成数としては、200種類1000個体を超えているはずです。
高橋作りやすい種類というのもあるんですか?
吉田簡単なのはそうですね。 ほ乳類は比較的作りやすいですね。 肉を透明する過程で、アルカリ性の液に浸けて肉が溶けないようにしながら透明にしてくのですが、液に浸けてるんでバラけちゃうこともあるわけです。肉が弱ければ、弱いほどバラけてしまうので、ほ乳類のように筋骨格がしっかりしていると作りやすいのです。
高橋なるほど。ということは、魚のように身が柔らかそうな動物は難しいわけですね。
吉田1番難しいのは、骨のないイカとかタコなどは骨がないので、柔らか過ぎて作りづらかったです。 根気と時間さえかければ出来ないことはないのですがね。

「透明標本」によって与えられる、新しい生命のカタチ
高橋ちなみに、今日持ってきていただいたサンプルはなんでしょう?
吉田この大きいのはグレーエンゼルで、こちらはニシキヤッコになりますね。
高橋この透明の部分は何ですか?
吉田肉が透明の部分は、生き物本来の肉なんです。
高橋へえ!肉の色素を抜いて透明にしているわけですね。 一般の方は、どこに飾るんですか? 書斎とか水槽に飾っていらっしゃるのでしょうか。
吉田たとえば、こうやってキーホルダーにしてみたり、時計のオブジェにしたり、アクセサリーに加工したりと比較的自由度高く、何でもできます。
高橋このビンボトルに入っているのは擬似水槽のようですね。これいいですね。まさに永遠の命が吹き込まれているようです。
高橋アクアリウムショップを運営していると、どうしても死んでしまうお魚も一定数でてきてしまう悲しい現実があるんです。そういった意味でも、このような透明標本という新しい命を吹き込んでユーザーの方に生命を感じてもらう、、、というのは凄く魅力的な商材だと思います。 自分が飼育していた生き物を標本にしてもらえるのは、素晴らしいサービスですね。
吉田はい。大変ありがたいことに、たくさんの依頼やお問合せをいただいています。 それと、グロカワ系に耐性があるのか、男性よりも女性からメッセージいただくことが多いですね。
高橋イベントへの出展もされているという事でしたが、どのようなイベントなのでしょうか?
吉田クリエイター向けのデザインフェスタという大規模なイベントが年二回ありまして、作品を作り溜めておいてそちらに出展しています。

マリンアクアリウム業界のDXに挑戦する理由
高橋ここで、エム・エー・ディーのアクアラボ事業の話をさせてください。
エムエーディーは、IT会社でウェブのシステムを作っている会社です。 最近ですと、DXっていう括りでお客さんの事業変革をするためのシステムを開発しています。 その一環として、さまざまな流通業のDXをしたいなと思っていて、少し前に農家の方が直接エンドユーザーに商品を届けられるというモデルが話題となりましたが、これも商品が届くだけではなくてシステムも繋がなきゃいけないので、こういった取り組みも行っています。
そんな中、知人がやっていた鑑賞用魚類の販売の存在を知り、「これだ!」と思いました。 マリンアクアリウムの業界でDXをやっている会社がどこにもなかったんですね。生き物が国を越えて輸送されるので、到着までのリードタイムが短くなったり、最適化や合理化がされればハッピーだよね、ということでその会社とパートナーシップを結んで生き物を手がけ始めました。
やってるうちに「命ってなんだろう」とか、「自然の雄大さ」とかそういったところに意識が向かうようになって、今でいう「SDGs」とか、「サスティナブル」いう分野に関わっていると興味だけでなくて、解決に至ることもやっていきたいな、というように考えるようになってきました。
これが、私たちエム・エー・ディーがアクアラボというマリンアクアリウム事業に取り組んでいる目的です。

「透明標本」の魅力を一人でも多くの人に
高橋飼育していたペットが死んでしまった時に、亡骸をどのように処理するかというのは、人間として凄く深刻な問題だと思うのです。自分自身の子供の頃を振り返ると、なかば生ゴミになってしまったものを近所のどこかに埋めていたわけですけど、透明標本にすることで埋葬する必要がなくなるというのは革新的なサービスですし、世の中に感動を与えられると思っています。
吉田標本というのは、変わらないことが大事なんです。このように標本にさえなってしまえば、アート作品やインテリアの一部として自分が死ぬまでずっと一緒にいられるわけです。
高橋 私達はIT会社ですから、この素晴らしい透明標本を少しでも世の中に発信していきたいと思っています。本日はありがとうございました。