飼育の心得

海水魚と淡水魚の飼育は別物

海水魚とは、読んで字のごとく、地球表面積の7割を占める「海」という広大な場所に生息している魚たちのことを指します。
日本では単に「海水魚」と呼ばれていますが、多くの諸外国では「Tropical Marine Fish=熱帯魚」という呼称で通っています。この呼称の違いが「海水」と「淡水」に棲む魚の区別を曖昧にしがちなのです。なぜならばわが国において「熱帯魚」とは、アマゾン川等を代表とする「熱帯性気候の川や沼に棲む魚」を指すことが多いのです。

「川や沼(いわゆる淡水)」と「海」とでは当然ながらその生息環境が大きく異なり、閉鎖された環境ともいうべき水槽飼育下での飼育方法ともなれば実に大きな違いが生じるということが、皆様にもご理解いただけることと思います。

わが国では昔から金魚の飼育には慣れ親しんできた文化があります。きっと多くの人が一度は自ら飼育経験があったり、学校など身近な生活環境での飼育を観察したことでしょう。しかしながら、この金魚もまた「淡水魚」。海にいる魚とは根本的に生活環境が異なるのです。

まずはこのことを認識してください。

海水魚を飼うことは、淡水魚飼育に比べて「難しい」というイメージをお持ちではありませんか?
決してそんなことはありません。大切なのは同じ魚だからという理由で淡水域の魚飼育と混同せず、海水魚の特性に関する正しい知識を得ることなのです。

最も大切なのは「生物ろ過」の正しい知識

「海水魚を飼う上で一番重要なことは何ですか?」と聞かれた時、私は必ずこのように答えています。それは、「海水の有毒物質をいかに排除することができるか」ということ。こと小さい水槽内における最も厄介な存在が、毒性の強い「アンモニア」です。海水魚飼育は、このアンモニアとの闘いといっても決して過言ではありません。

ご存知の通り、アンモニアといえば人間にとっても猛毒です。「毒物および劇物取締法」においても劇物に指定され、液体状のものが飛散した場合は非常に危険で、特に目に入った場合には失明に至る可能性が非常に高いとされています。

では、そんな猛毒のアンモニアを作り出す原因は何でしょうか?驚くべきことにアンモニア発生要因は、実は海水魚自身にあります。少し専門的になりますが、海水魚は常に浸透圧の調整に気を配って生活しています。そのため 体内の水分補給が重要になり、水分を小便として体外に排泄することはほとんどありません。その代わりに、アンモニアがより濃密な糞を頻繁に排泄しているというわけです。この大便の濃密度は、一説によると「淡水魚の100倍」ともいうのですから同じ魚種でも大変な違いですね。さらに悪いことに、アンモニアは「淡水に比べ、海水の方に良く溶け込む」という物質特性があるので厄介なのです。

この、猛毒アンモニアはどうしたら排除できるのでしょうか。
ここで登場するのが、「バクテリア(細菌)」です。彼らバクテリアの特性と働きを上手に利用することで、水槽内に発生したアンモニアを無害化させることができるのです。この作用を「生物ろ過」と言います。(単に浮遊物などを除去することは「物質ろ過」といい、明確に区別しています)

専門的な説明は割愛しますが、簡単に説明しましょう。
バクテリアには2つの種類が存在し、まず片方のバクテリアが猛毒の「アンモニア」を、毒性の低い「亜硝酸塩」に消化してくれます。毒性はかなり落ちたものの、まだこの時点では安全とはいえず不完全な状態です。
そこで次に活躍するのが、もう一方のバクテリア。このバクテリアが「亜硝酸塩」を、魚にとってほぼ無害といってよい「硝酸塩」に消化してくれるのです。いわゆる「化学」の仕組みを応用するわけです。

この、「生物ろ過」が順調に水槽内で行われる環境を作ってあげることができれば、さほど心配はいりません。とはいうものの、決して自然界と同一条件となったわけではないので、必要最低限の条件・飼育者の心得だと理解していただければと思います。

お客さまの悩みを私たちに聞かせてください

魚にとって「海水」とは、私たち人間にとっての「空気」のような生命に直結した存在です。この「生物ろ過」の仕組みを、「正しく理解し、実践すること」が海水魚飼育の基本だと私たちは考えます。お客様にアドバイスを差し上げることはもちろんのこと、時にお客様と一緒に問題解決にチャレンジしていきたいと思いますので、どんな些細な疑問や悩みでも私たちに聞かせてください。誠心誠意、ご相談に乗らせていただきます。